竹弓用のフライトケースを作ってみた
以前、弓を持って飛行機で移動するにはどうすれば良いか、という記事を書きました。
弓を持っての飛行機や新幹線での移動の工夫
弓を持っての飛行機での移動の工夫、その2
弓を持って新幹線での移動の工夫 その3
2018年に、弓を持って飛行機で移動する機会が多く、記事を書きながら、やはり大事な竹弓を安心して運べるフライトケースが欲しいと思っていました。
今回、竹弓用のフライトケースを自作してみました。
日曜大工で、構想は約2年、実際の製作は試作も含めると、約1年かかっています。
いくつもの試作、工程を経て完成しました。細かい製作段階の記事はまた今後書こうと思いますが、もし、作ってみようと思う方の参考になればと思い、今回、全体版を紹介します。
竹弓用のフライトケース
カーボン繊維をポリエステル樹脂で固めたもので、いわゆるCFRPという方法で作成しました。
2張用(最大4張)で、裏反り10cmから25cmに対応しています。
長さ:230cm、厚み:6cm、幅:20〜30cm(湾曲を考慮すると約40cm)
重さ:弓無しで4.1kg 、竹弓2張収納で5.5kgです。
また、使わないときは、分割して、120cm程度の長さにすることが可能です。
本体は、片方が2つに、もう片方が3つに分割されています。
分割した部品をジョイントを使って接続する構造になっています。接合部はパッチン錠でとめています。
他の場所も留めていきます。
継ぎ終わったら、弓を入れます。標準は2張用です。
蓋をしてパッチン錠で留めます。
すぐ倒れますが、一応この向きでも自立します。
裏反りの変化に対応しています。
人が座っても壊れません(弓入っていません)
小さく収納できます。
壁に立てかけられます。
竹弓用フライトケースの構想
どんなケースにするか考えたときに参考にしたのは、バイオリンなどの楽器のケース、釣り竿用のロッドケース、などです。それらを見ながらなんとか弓用に作れないかなと思案していました。
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満たしたい条件として、
①あまり大きすぎない
②裏反りの変化に対応できる
③できれば2張入れられる
④短く収納できる
⑤十分な強さがある
というのを考えていました。
①あまり大きすぎない
例えば、ジュラルミンケースみたいなものを作るとすると、運べるのはいいですが、あまりにも大きくなってしまいます。
なので、できるだけ大きくなりすぎないように作りたいです。できれば、タクシーに乗る大きさが良いです。
カケはともかく、弓は宅配・輸送で長さ的に規格外になる場合も多いですが、ぴったり収まって繰り返し使えるこんな感じの弓用ハードケースがあったら安心ですね。 pic.twitter.com/PHw7GgxNNM
— 猪飼弓具ネット店長 (@net_tencho) September 5, 2018
これだと大きいですので個人用には難しいですよね。
②裏反りの変化に対応できる
一番難しいのがここで、竹弓は裏反りが個々の弓で違う上に、一つの弓でも外した直後と数時間後では裏反りが変わります。
一定の裏反りで変化しないのであれば、本当に弓とほぼ同じ幅でケースを作ればかなり小さく作れますが、その変化を吸収できるサイズが必要です。
③できれば2張入れられる
飛行機での移動用なので、遠征ということになるので、竹弓の場合、一張だと、笄などが起こり、もしものことがあれば、引ける弓が無くなるので、2張持って行きたいところです。なので、デフォルトで2張入れられるケースにしたいです。3張用だとさすがに大きくなり過ぎてしまいます。
④小さく収納できる
①と重なりますが、これも重要なポイントです。釣り竿のロッドケースなどでは、長さを調節できるものもあります。弓用のケースとなると、2m30cmくらいになります。そのままだとかなり大きなものを持ち運ぶことになるので、折りたたんで収納できるのはかなり便利です。タクシーなどにも乗りやすくなります。この小さく収納できるのと、強度が担保できるかがポイントです。
⑤十分な強さがある
保護ケースなので、竹弓が壊れない充分な強度が必要です。竹を添えたのと同じくらいの強度では意味がありません。しっかり保護できるのが理想です。
実際に作ったケースの各部の紹介と製作過程
CFRP製の本体
本体はカーボン繊維をポリエステル樹脂で固めた、CFRP製で作成しました。軽くて丈夫な仕上がりになります。
自分の弓の、裏反りの深い弓、外してすぐの浅い状態、いずれにも対応できるように型をとりました
スタイロフォームで原型を作成しています。
カーボン繊維を5枚重ねにして、ポリエステル樹脂で成型しています。
樹脂はしっかり固まるのに1週間以上かかるので、片面ずつ、かなり大がかりな作業をしました。
最後は、ウレタン塗料で塗装しています。
強度としては、人が乗っても壊れません。
カーボン繊維はこちらで買いました。
カーボン・ケブラー・ハイブリッド クロス 格安販売 NEWS COMPANY (ニューズカンパニー)
カーボン樹脂はこちらで
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接合部はバイオリンケースのゴムレールを流用
カーボンの本体を閉じるのに、適した材料を考えた結果、バイオリンなどの楽器ケースに使われているゴムレールを使用しました。これはレールだけで市販されているものが無く、国内の楽器ケースメーカーにレールだけ売っていただけないか問い合わせましたが無理でした。安いバイオリンケースを探して(3個必要でした)、流用させていただきました。最終的にバイオリンケースは、その他の金具もかなり流用させてもらいました。
パッチン錠は合うものが無かったので、一部自作
これを製作して一番困ったのが、これに合うパッチン錠が無いことです。ケースの厚みは6cmなんですが、強度のあるパッチン錠はほとんどの種類がはみ出てしまいます。これはかなり試行錯誤して、最終的 には、既存品を一部グラインダーでカット、鋼線部は自分で作り直して自作しました。全体ではCFRP加工が一番時間かかりましたが、この金具を見つけてここに至るまでもかなりの時間がかかりました。ステンレス製を使っています。
型番としてはタキゲンの「C-1021-2」というもので、モノタロウさんでも扱いがなくメーカーから直接で買えたのでメーカーから買いました。
C-1021 / C-21:ステンレス 針金パチン錠 | TAKIGEN | タキゲン製造株式会社 https://www.takigen.co.jp/products/detail/C-1021
固定はブラインドリベットを使っています。
接合部を3か所に作ってコンパクトにできるように、それでも耐荷重性能あり
自分の希望の①あまり大きすぎないと④小さく収納できるですが、作った長尺のCFRPの本体を、どのように短くするか、かなり思案しました。最終的には木工のビスケットジョイントのように間にジョイントを挟み(ビスケットというより鰹節ですが)、接合できるようにしました。これのCFRP加工が、このケースの最大の難点で、「ジョイントの型どり」→「ジョイントの成型」→「ジョイントを入れた状態で再度カーボン繊維を固定」→「ジョイントだけ残して周囲を切断」という加工があって、途中試作品も経て、なんとか完成しました。それぞれの樹脂の硬化に1週間かけるので、本体の成型以上に時間がかかる作業でした。
ジョイントの強度がないと最終の強度が保てないので、カーボン繊維の厚みを増して対応しました。
ジョイントをCFRPで作成しています。
ジョイントを残してカットするのが難しかったです。
分割しても、人が乗れる強度を維持しています(弓入っていません)。
でもあんまり強い力をかけたらさすがに壊れそうですが、かつての私の使った竹を添えるだけよりははるかに強そうです。
さらに接合部は仕上げは、コーキング用のシリコンで仕上げました。
(あとでシリコン同士はくっついてしまうことに気づき、テープを張って難をのがれました。もっと良い素材があっったかもしれません)
接合部が重ならないように、片方は2個に分割、もう片方は3個に分割するようにしました。
内装はウレタンスポンジを入れられるベロア生地のカバーを作成
ケースに入れている間に弓の裏反りが変化するかもしれないので、それを緩衝できるような素材を考えました。また、楽器ケースのような、美しい内装にもしてみたいです。最終的にベロア生地のカバーを作ってウレタンスポンジをそれに入れる構造にしました。ファスナー式にして、中のウレタンスポンジの厚みが将来変えられるようにしています。これは、実は縦に2張入れる前提ですが、交互にいれると4張まで入ります。そのときに、2張用のスポンジの厚みだと入らなくなるので、薄いスポンジに変更できる構造を考えました。コンシールファスナーを使ったスポンジカバーの作成は、なかなか大変でした。
↓カバーに入れる前のスポンジのみの状態
使ったのはこちらの生地 ブルーグレーがとっても良い感じの色でした。裏は紺です。
脚をつけて自立や立てかけに対応
足をつけたので立てておけます。
壁に立てかけるときに当たるところにも足をつけました。
人との大きさの対比
完成後
無事に裏反りの変化に対応
一番気になっていた裏反りへの対応ですが、張って裏反りがない状態で、ケースに収納→1時間後です。
ちゃんと裏反りの変化に対応できています。
実際には弓巻きを巻いて収納予定です。
使わないとき用の収納袋も作成
以前、ゴアテックスの布をオークションで落札したときに、ストアの方がおまけで防水生地をつけてくださったので、今回それを使わせてもらいました(なので材料費無し)。
これで、現地到着後は、この収納袋にいれて持ち歩けます。矢筒よりやや大きいです。荷物にはなりますが、飛行機での移動が間にあることを考えればこれくらいは許容範囲ではないでしょうか
ジョイントパーツ用の内袋をつけました
袋は紐で締めるようにしています。
こんな感じです。
気になる点や欠点
耐用年数
CFRPはかなり長く持ちそうですが、ゴムレールとシリコンの耐用年数が気になるところですね。あとはウレタンスポンジもちょっと気になります。もって10年くらいでしょうか。それまで何回使う機会があるか…
防水性は?
完全防水ではないです。分割式であることもちょっと防水には不利ですね。
実際に飛行機に乗せてもらえるか、追加料金はかかるか
今のところ、このケースの以前で、国内線で追加料金をとられたことがないのですが、ちょっと弓だけのときより大きくなるので、そこが心配です。また国際線で追加がいるかですね。このあたりは、釣り具でこういったケースを運んでおられる方のブログが参考になります。
→追記2022/6 国内線では追加料金ありませんでした。
(【弓道】弓を持っての飛行機での移動の工夫 その4 フライトケース編)
他の弓には対応できない? 二寸伸まで対応
実は私の持っている弓を前提に作っています。裏反りが10cm以下の弓は実際のところ入れられません。なので、竹弓専用、かつ裏反りがある程度ある弓専用になります。
私の弓用なので二寸伸用です
なので、それより長い弓は入りません。
貸し出したり、一緒に入れることができません。しまったな…、一緒に遠征に行きたい先生が4寸伸使っておられた…。
値段は?
さて、これの製作費ですが、作ること自体が趣味なので、採算度外視で作っていますが参考までに。
実費だけで考えると
・カーボン繊維 1m×7m 3万円くらい
・ポリエステル樹脂 1万5千円くらい
・バイオリンケース3個 2万円くらい(実際にはもっと高い)
・金具 1万円くらい
(パッチン錠、ステンレスリベット)
・塗装 5千円くらい
・ベロア生地 5千円くらい
・スポンジ 5千円くらい(実際はもっと高い)
でしょうか。そうなると材料費なら10万円くらいでしょうか(そんなにしてたのか…)。
バイオリンケースが、ゴムレールだけで買えればもう少し安くなるかもしれませんが…。
しかしながら、試作品つくるのに樹脂や繊維をもっと消費したのと(カーボン繊維が高い、そもそもカーボンFRPの前にガラス繊維のFRPも1回試している)、ディスクグラインダーをこのために買った、リベッターも買った、ヒートガンも買った、塗装のためのテントを自作した、夏季の作業のためファン付きベストを買った、試作のためにパッチン錠をかなり買った、結局使わなかった工具も買ったりした、等で、実際には、1.5倍以上はかかっている気がします。
1年をかけた製作過程は、各項目にわけて今後紹介していきます。それぞれ、試行錯誤を繰り返して作成しました。
今回は、ひとまず完成したので要約版でまず紹介させていただきました。
完成したこともですが、アイデアを練っているとき、作っているときが1番楽しかったです。
こんな、竹弓用のフライトケース、いかがでしょう。
コロナが収束して、もっと自由に飛行機で往来できる時が来ると良いですね。
動画も良かったらご覧ください。
【弓道】竹弓用のフライトケースの作成 Hard case for Takeyumi(bamboo bow)